Column
2025年12月16日
サラのコラム
台湾を訪れる旅は、現代的な都市や豊かな自然を楽しむだけのものではなく、島に刻まれてきた歴史の奥行きを辿る体験でもあります。その中でも、日本統治時代(1895年~1945年)に建設された数々の建築物は、今なお高い完成度と実用性を保ち続けており、台湾の風景の中で特別な存在感を放っています。
これらの歴史的建造物が持つ価値は、非常に大きなものです。日本国内や、かつて日本の勢力圏であった旧満州地域では、戦争や急速な都市開発の影響により、同時代の建築物の多くが失われてきました。一方で、台湾や韓国には、当時の日本が培った高度な建築技術や設計思想を今に伝える建造物が、貴重な文化遺産として数多く残されています。
台湾全土の都市部や地方の要所には、そうした時代の空気を感じさせる建築が点在しており、建築に関心のある方はもちろん、一般の旅行者にとっても訪れる価値の高い場所ばかりです。これらの建築物を巡ることは、単なる知識としての歴史にとどまらず、当時の日本と台湾が共有していた時間や文化に思いを寄せる、心に残る体験となります。
日本統治時代に建てられた建築物の大きな魅力の一つは、多くが「保存されただけの史跡」ではなく、現在も当時の用途、あるいはそれに近い形で使われ続けている点にあります。
当時建設された官公庁舎や郵便局、金融機関の建物は、地震や台風を想定した堅牢な構造と、細部まで配慮された重厚な意匠を備えていました。その完成度の高さから、現在でも中央政府の重要機関や郵便サービスの拠点、主要銀行の支店などとして、台湾社会の中枢を支え続けています。また、当時の駅舎は近代的な鉄道網の一部として活用され、学校や病院も必要な改修を重ねながら、人々の学びと健康を支える現役の施設として機能しています。
こうした実用性と機能性を追求した結果として生まれた美しさ、いわゆる用の美に触れると、過去と現在が自然につながっている感覚を覚えます。当時の設計者たちが将来を見据え、緻密に計算を重ねて築き上げた構造美と機能美が、半世紀以上を経た今も台湾の人々の生活を支えている姿は、日本人旅行者にとっても、静かな感動と特別な思いを呼び起こす瞬間と言えるでしょう。
これらの建築遺産は決して一様なものではなく、建てられた場所や目的に応じて、さまざまな様式や意匠が見られます。
公共建築においては、西欧の古典主義やルネサンス様式を取り入れた重厚な石造や煉瓦造が多く採用されました。これらは、当時の最新技術と設計思想を反映したものであり、日本の技術力や統治体制を象徴する存在でもありました。多くの場合、都市の中心的なランドマークとして計画され、その堂々とした姿は現在も人々の目を引き続けています。
一方で、地方の役場や学校、住宅などには、台湾の風土や気候に合わせた工夫が随所に見られます。煉瓦と木材を組み合わせた親しみやすい外観、湿気対策を考慮した高床構造、強い日差しを遮るための深い庇など、生活に根ざした細やかな配慮が施されています。これらの建築は周囲の風景に自然に溶け込み、地域の人々の記憶と深く結びついています。
こうした建築物を巡ることで、私たちは外観を眺めるだけでなく、当時の台湾における暮らしや社会の在り方、日本と台湾の歴史的な関係性についても考えるきっかけを得ることができます。歴史を体感する旅として、また建築デザインを味わう旅としても、非常に奥行きのあるテーマと言えるでしょう。
ここでご紹介したのは、台湾に残る日本統治時代の建築遺産のごく一部に過ぎません。各地に残るこれらの建造物が、現在も現役で使われ、地域社会に貢献し続けているという事実は、改めて高く評価されるべきものです。台湾を訪れる際には、ぜひ観光ルートの一つとして組み込み、実際にその姿を間近でご覧になってみてください。従来の観光とは少し異なる視点から、台湾の多層的な魅力を感じられるはずです。
執筆者: Sara Hashimoto