Column
2025年12月18日
インドネシアのコモド国立公園に生息するコモドオオトカゲは、世界最大のトカゲとして知られ、長年にわたり国際的な観光の象徴とされてきました。しかし現地では、彼らを単なる野生動物や観光資源としてではなく、特別な存在として捉える人々がいます。それが、コモド諸島に古くから暮らす先住民アタ・モドの人々です。
2025年10月、ウィスコンシン大学マディソン校の研究者による学術研究が発表され、アタ・モドとコモドドラゴンの関係性が改めて注目されました。彼らはコモドオオトカゲを、同じ母から生まれた兄弟のような存在と考え、人間と他の生き物を明確に分けないアニミズムに基づく世界観を今も守り続けています。
現在、コモド国立公園では、国や国際機関主導による自然保護と観光開発が進められています。表向きは環境保全を目的としながらも、実態としては野生生物や自然環境を高付加価値の観光商品として扱う側面が強まっています。入域制限や高額な料金設定、高級志向の観光政策は、その象徴と言えるでしょう。
こうした流れに対し、アタ・モドの人々は静かな抵抗を続けています。その方法は対立ではなく、信仰と生活に根ざした「下からのエコツーリズム」です。彼らは自分たちが自然の管理者であると同時に、自然の一部であるという認識のもと、コモドオオトカゲと共に生きる観光の形を模索しています。
この考え方に基づく観光には、明確なメリットがあります。訪れる側は、コモドオオトカゲを単に写真に収める対象としてではなく、現地の文化や信仰と結びついた身近な存在として理解することができます。また、観光を通じて地域住民の尊厳や権利を尊重する姿勢を学ぶ機会にもなります。
一方で、そうした取り組みはなかなか具現化しないのが現実で、また政府主導の効率的で画一的な観光開発と比べると、住民主導の取り組みはルールやサービス内容が分かりにくく、旅行者が戸惑う場面もあります。インフラや予約体制が十分に整っていない地域では、不便を感じることもあるでしょう。
どこの国でもそうですが、こういった葛藤が真のサステナブルツーリズムの実現を難しくしている側面があります。つまり、観光資源をいかに守るかという理想と、商業主義的な開発がうまく噛み合わないのです。
特に大量送客による弊害が著しいことは、かつて日本でも各地の温泉が涸れたり、現在でもトイレ問題や、インバウンドによる旅行費用の高騰で国内旅行客が減少していることなどをみても明らかです。
コモド国立公園事務所では、増加する観光客によるオーバーツーリズムが、コモドドラゴンを中心とする野生生物への悪影響が懸念されることから、現在でもコモド島などを閉鎖する可能性を示唆しています。
そのため、以前実施寸前までいった高額入域料の導入や、国立公園の閉鎖も、今後あり得ないとも限りません。
サラトラベルとしても、こうした現地の背景や価値観を尊重しながら、「地元への貢献」として何ができるか考え、できる中で最大限コモド諸島をご満喫いただけるようご旅行づくりに生かしていきたいと思います。
コモド島の本当の魅力は、オラの迫力だけでなく、その存在を守り続けてきた人々の思想と暮らしの中にあると考えます。
執筆者: Sara Hashimoto
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